ネットワークの勉強を始めると、かならず出てくるのが「OSI参照モデル」です。「L2スイッチ」「L7で見る」のような言い方も、このモデルの層(レイヤー)の番号から来ています。
この記事では、OSI参照モデルの全体像、7つの層それぞれの役割と身近な例、TCP/IPモデルとの対応、データが層を通る流れ(カプセル化)、トラブルのときに層ごとに確かめる方法までを、初心者向けにまとめます。各層の詳しい解説は、シリーズの個別記事で取り上げます。
OSI参照モデルとは?
OSI参照モデルは、コンピューター同士の通信に必要な機能を7つの層(レイヤー)に分けて整理した「考え方の地図」です。OSIは「Open Systems Interconnection(開放型システム間相互接続)」の略です。
国際標準としては、ISO/IEC 7498-1(1994年)として発行されていて、ITU-T(国際電気通信連合の電気通信標準化部門)からも勧告X.200(1994年7月)として出されています。ISOの説明によると、ISO/IEC 7498-1は1984年に出た初版を置きかえたものです。
大事なのは、OSI参照モデルはそのまま実装するための仕様ではないということです。ISOの概要にも「実装の仕様として使うことを意図していない」と書かれていて、いろいろな通信の規格を整理して位置づけるための共通の土台として作られました。
層に分けると何がうれしいのか
- 役割分担がはっきりする:たとえば「ケーブルの規格」と「Webページのやりとり」を別々に考えられる
- 入れかえやすい:有線LANを無線LANに変えても、上の層(ブラウザなど)はそのまま使える
- トラブルの切り分けがしやすい:「どの層で止まっているか」を下から順に確かめられる
- 会話の共通語になる:「L3の問題」「L4で弾かれている」のように、短く正確に伝えられる
7つの層の一覧

OSI参照モデルの7つの層は、下(第1層)から上(第7層)へ積み重なっています。ここで挙げる例やデータの呼び方(PDU)は、一般によく使われる対応づけです。実際のプロトコルはOSIにぴったり合わせて作られたわけではないので、資料によって分け方が少しちがうことがあります。
| 層 | 名前 | ひとことで言うと | 身近な例 | データの呼び方(PDU) | TCP/IPモデルでは |
|---|---|---|---|---|---|
| 第7層 | アプリケーション層 | アプリが使う通信のルール | HTTP(Web)、DNS、SMTP(メール) | データ(メッセージ) | アプリケーション層 |
| 第6層 | プレゼンテーション層 | データの表し方をそろえる | 文字コード(UTF-8)、圧縮(暗号化を含める説明もある) | データ | アプリケーション層 |
| 第5層 | セッション層 | 会話の始まりと終わりを管理 | ログイン状態の維持、通信の再開 | データ | アプリケーション層 |
| 第4層 | トランスポート層 | アプリ同士を確実に(または速く)つなぐ | TCP、UDP、ポート番号 | セグメント(TCP)/データグラム(UDP) | トランスポート層 |
| 第3層 | ネットワーク層 | ネットワークをまたいで届け先まで運ぶ | IPアドレス、ルーター、ping(ICMP) | パケット | インターネット層 |
| 第2層 | データリンク層 | となりの機器まで届ける | MACアドレス、スイッチ、Wi-Fiの接続 | フレーム | リンク層 |
| 第1層 | 物理層 | 0と1を電気・光・電波にする | LANケーブル、光ファイバー、コネクタ | ビット | リンク層 |
覚え方としては、上から頭文字をとって「ア・プ・セ・ト・ネ・デ・ブ(アプリケーション・プレゼンテーション・セッション・トランスポート・ネットワーク・データリンク・物理)」がよく使われます。英語では下から「Please Do Not Throw Sausage Pizza Away」のような語呂合わせもあります。
各層をかんたんに紹介
第1層:物理層

データの0と1を、電気の信号・光・電波に変えて実際に送る層です。LANケーブルやコネクタの形、光ファイバー、Wi-Fiの電波などがここにあたります。「ケーブルが抜けている」「リンクランプが消えている」は第1層の問題です。
第2層:データリンク層

同じネットワークの中で、となりの機器までデータ(フレーム)を届ける層です。機器ごとのMACアドレスを使い、スイッチがどのポートに送るかを決めます。有線LAN(イーサネット)やWi-Fiの接続のルールもここにふくまれます。
第3層:ネットワーク層

IPアドレスを使って、ネットワークをいくつもまたいで最終的な届け先まで運ぶ層です。ルーターが道順(経路)を選びます。pingで使うICMPもこの層の仲間です。
第4層:トランスポート層

パソコンの中のどのアプリあての通信かをポート番号で区別し、TCPなら「とどいたか確認して、足りなければ送り直す」、UDPなら「確認せずに速く送る」というように、送り方を決める層です。ポート番号とポートフォワードのしくみはポートフォワードとは?でも解説しています。
第5層:セッション層

通信する相手との「会話(セッション)」を始めて、続けて、終わらせる役割の層です。身近なところでは、Webサイトで「ログインしたままの状態」を保つ考え方がこれに近いです。TCP/IPには独立したセッション層がなく、この役割はアプリや、そのほかのしくみが受け持ちます。
第6層:プレゼンテーション層

データの「表し方」をそろえる層です。文字コード(UTF-8など)、データの圧縮などがこの役割にあたります(暗号化もこの層の例として紹介されることがあります)。文字化けは、送る側と受け取る側で文字コードの解釈がずれたときに起きます。
第7層:アプリケーション層

ブラウザやメールソフトなどのアプリが直接使う通信のルールの層です。Webを見るHTTP、名前からIPアドレスを調べるDNS、メールを送るSMTPなどがあります。プロキシサーバーのように、この層の中身を見て中継するしくみもあります(プロキシサーバーとは?)。
それぞれの層の役割、よくあるトラブル、確かめ方は、シリーズの各層の記事でくわしく解説します。
OSI参照モデルとTCP/IPモデルのちがい
いまのインターネットで実際に使われている通信のしくみは、TCP/IP(インターネット・プロトコル・スイート)です。インターネットのホスト(機器)が守るべき要件をまとめたRFC 1122では、層を次の4つに分けています。
| TCP/IPモデル(RFC 1122) | 主なプロトコルの例 | 対応するOSIの層(目安) |
|---|---|---|
| アプリケーション層 | HTTP、DNS、SMTP、SSH など | 第5〜7層 |
| トランスポート層 | TCP、UDP | 第4層 |
| インターネット層 | IP、ICMP | 第3層 |
| リンク層 | イーサネット、Wi-Fi など | 第1〜2層 |
RFC 1122は、TCP/IPのアプリケーション層を「OSIのプレゼンテーション層とアプリケーション層の機能をまとめたもの」と説明しています。TCP/IPはOSIに合わせて作られたものではないので、この対応はあくまで目安です。OSI参照モデルは「考えるための地図」、TCP/IPは「実際に動いているしくみ」と覚えておきましょう。TCP/IPモデルの4つの層やパケットの流れは、TCP/IPモデルとは?4つの階層とOSI参照モデルとの違いでくわしく解説しています。
なお、HTTPSで使われる暗号化のしくみTLS(RFC 8446)は、役割としては第5〜6層に近いと説明されることが多いものの、OSIに合わせて作られたプロトコルではないため、資料によって扱いが異なります。
データが層を通る流れ(カプセル化)

データを送るとき、上の層から下の層へ渡すたびに、その層で必要な情報(ヘッダー)が付け足されていきます。これをカプセル化といいます。受け取る側では逆に、下の層から順にヘッダーを外していき(非カプセル化)、最後にアプリにデータが届きます。
ブラウザでWebページを開くときを例にすると、次のような流れになります。
- 第7層:ブラウザが「このページをください」というHTTPのリクエストを作る
- 第6・5層に近い役割:HTTPSなら、TLSで暗号化される(文字コードや圧縮の扱いもこのあたりの役割)
- 第4層:TCPのヘッダー(送信元と宛先のポート番号など)が付き、セグメントになる
- 第3層:IPのヘッダー(送信元と宛先のIPアドレスなど)が付き、パケットになる
- 第2層:イーサネットやWi-Fiのヘッダー(MACアドレスなど)が付き、フレームになる
- 第1層:フレームが電気・光・電波の信号(ビット)になって送り出される
途中のルーターは、主に第3層までを見て次の行き先を決めます。スイッチは主に第2層までを見ます。このように、機器によって「どの層まで見るか」がちがうのもポイントです。
機器と層の対応(目安)
| 機器・しくみ | 主に見る層 | 見ているもの |
|---|---|---|
| リピーターハブ、メディアコンバーター | 第1層 | 電気・光の信号 |
| スイッチ(L2スイッチ) | 第2層 | MACアドレス |
| ルーター、L3スイッチ | 第3層 | IPアドレス |
| パケットフィルタリング型のファイアウォール | 第3〜4層 | IPアドレス、ポート番号 |
| プロキシ、ロードバランサー(L7)、WAF | 第7層 | HTTPなどの中身 |
ファイアウォールの種類とどの層で通信を止めるかは、ファイアウォールの重要性と仕組みを徹底解説でくわしく紹介しています。
トラブルのときは「下の層から」確かめる
「インターネットにつながらない」「サイトが開けない」というとき、OSI参照モデルを使うと順番に切り分けられます。基本は下の層から順に確かめることです。下の層が動いていなければ、上の層は動けないからです。
次のコマンドは、どれも自分のパソコンの状態を見たり、相手に通常の通信を1回送ったりするだけの、確認用のものです。OSによってコマンドがちがうので、使っているOSの列を見てください。
| 層 | 確かめること | Linux | macOS | Windows |
|---|---|---|---|---|
| 第1層 | ケーブルや電波につながっているか | ip link show | ifconfig | ipconfig /all |
| 第2層 | 同じネットワークの機器が見えているか | ip neigh | arp -a | arp -a |
| 第3層 | IPアドレスがあるか | ip a | ifconfig | ipconfig |
| 第3層 | 出口(デフォルトゲートウェイ)があるか | ip route | netstat -rn | route print |
| 第3層 | 相手まで届くか | ping -c 4 宛先 | ping -c 4 宛先 | ping -n 4 宛先 |
| 第3層 | どこまで届いているか | traceroute 宛先 | traceroute 宛先 | tracert 宛先 |
| 第4層 | 相手のポートにつながるか | curl -v https://example.com/ | curl -v https://example.com/ | curl.exe -v https://example.com/ |
| 第7層 | 名前が引けるか、正しい応答が返るか | dig example.com、curl -I https://example.com/ | dig example.com、curl -I https://example.com/ | nslookup example.com、curl.exe -I https://example.com/ |
Linuxの ip link show で「NO-CARRIER」と出たら、ケーブルや相手の機器など物理的な接続を疑いましょう。curl -v では「Connected to」と出れば第4層の接続までは成功しています。Windowsの curl.exe は、Windows 10(バージョン1803)以降で標準で使えます。Windows PowerShell 5.1では curl が別のコマンド(Invoke-WebRequest)の別名になっているため、curl.exe と入力してください。
たとえば、ping でIPアドレスあてには届くのにURLでは開けないなら、第3層は通っていて、名前の解決(DNS、第7層)を疑う、というように考えられます。ただし、pingの応答(ICMP)を返さない設定のサーバーもあるので、pingが返らないだけで「つながらない」とは言い切れない点に注意しましょう。
よくある質問
OSI参照モデルは実際には使われていないの?
OSIの考え方にもとづいて作られたプロトコル群はありましたが、いまのインターネットで主に動いているのはTCP/IPです。それでも、OSI参照モデルの7層の分け方は、機器の説明(L2スイッチ、L7ロードバランサーなど)やトラブル対応の会話で今も広く使われています。
TCP/IPモデルの層の数は4つ?5つ?
RFC 1122では、アプリケーション層・トランスポート層・インターネット層・リンク層の4つです。本や資料によっては、リンク層を物理層とデータリンク層に分けて5層で説明することもあります。
「L2」「L3」とはどういう意味?
「L」はLayer(層)の頭文字で、OSI参照モデルの層の番号を表します。L2はデータリンク層、L3はネットワーク層、L4はトランスポート層、L7はアプリケーション層です。
覚えるときのコツは?
まずは「ア・プ・セ・ト・ネ・デ・ブ」で名前と順番を覚え、次に「LANケーブル=1、MACアドレス=2、IPアドレス=3、ポート番号=4、HTTP=7」のように、身近なものと層を結びつけると覚えやすくなります。
まとめ
- OSI参照モデルは、通信の機能を7つの層に分けて整理した国際標準の「考え方の地図」(ISO/IEC 7498-1、ITU-T X.200)
- 下から物理・データリンク・ネットワーク・トランスポート・セッション・プレゼンテーション・アプリケーションの7層
- 実際のインターネットはTCP/IP(RFC 1122では4層)で動いていて、OSIとの対応は目安
- 送るときは上の層からヘッダーが付き(カプセル化)、受け取るときは下の層から外れる
- トラブルのときは、下の層から順に確かめると原因を見つけやすい
OSI参照モデル シリーズ記事
このシリーズでは、OSI参照モデルの全体像と、7つの層を1つずつ解説しています(各記事は順に公開予定です)。
- OSI参照モデルとは?(全体像)
- 第1層 物理層
- 第2層 データリンク層
- 第3層 ネットワーク層
- 第4層 トランスポート層
- 第5層 セッション層
- 第6層 プレゼンテーション層
- 第7層 アプリケーション層
参考資料
- ISO/IEC 7498-1:1994 Information technology — Open Systems Interconnection — Basic Reference Model: The Basic Model
- ITU-T Recommendation X.200 (07/94) Basic Reference Model: The basic model
- RFC 1122: Requirements for Internet Hosts – Communication Layers
- RFC 8446: The Transport Layer Security (TLS) Protocol Version 1.3

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